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ナレッジ

川村雅彦のサステナビリティ・コラム

『統合思考経営』のWhy, What & How(第19回)

なぜ今、「統合思考経営」なのか?
~ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために~

2022年は新サステナビリティ情報開示基準元年!?
~出そろった3つの公開草案:SEC、CSRD/ESRS、ISSB~

Table of contents

  1. サステナビリティ開示基準の“乱立”から“協調・収斂”へ
    1. アルファベット・スープを“収斂”させる3つの公開草案
    2. TCFD枠組を基礎とする「新サステナビリティ情報開示基準元年」
    3. 3つの公開草案の共通点と相違点
  2. SEC公開草案の主要論点
    1. 投資家のために、気候リスクの財務的影響に焦点を当てる「SEC草案」
    2. SECへの提出書類で開示
    3. 「セーフ・ハーバー・ルール」の適用
  3. ESRS公開草案の主要論点
    1. サステナビリティ情報報告の標準化・義務化をめざす「ESRS草案」
    2. ESRSの理解はCSRDの理解から
  4. ISSB公開草案の主要論点
    1. サステナビリティ開示の「全般的要求事項」からはじまる「ISSB草案」
    2. 「コメント提出者への質問」からわかる論点
    3. 「統合思考」と通底する発想
  5. 忘れてはならないダブル・マテリアリティ
    1. 日本では有価証券報告書の改訂へ
    2. TCFD枠組はシングル・マテリアリティ
    3. 「サステナビリティ情報」と「サステナビリティ関連財務情報」の違い

前回 (18) では、メガトレンド・シリーズの一つとして「人口・人口動態」について述べましたが、今回は一旦中断して、別のテーマ(サステナビリティ情報の開示基準)としました。

  • (注)国連は7月、人口推計の改訂版を公表した。世界人口の増加率は1%を割り込み、20世紀の経済成長を支えてきた人口爆発は終わりを迎える。中国は少子高齢化で人口減少に転じ、来年にはインドが人口首位となる。
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM122RH012072022000000/(日本経済新聞ウェブサイト22年7月12日)

サステナビリティ開示基準の“乱立”から“協調・収斂”へ

アルファベット・スープを“収斂”させる3つの公開草案

近年のサステナビリティ情報開示に関するガイドラインの“乱立”は、「アルファベット・スープ」と呼ばれますが、今年になって大きく“協調・収斂”する動きが出てきました。この春に前後して、世界的に影響力をもつ3つの気候変動ないしサステナビリティ情報開示基準の公開草案が公表されたのです(ハブコメ付き)。発行主体と公開草案の名称は以下の通りです。

TCFD枠組を基礎とする「新サステナビリティ情報開示基準元年」

いずれの公開草案も2017年公表のTCFD枠組(4本柱:ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標)を基礎としており、世界的な“共通化”を予感させます。実は、昨年2021年にはIOSCO(証券監督者国際機構)によるグローバル・ベースラインの要請、基準設定の主要5団体によるTCFD型プロトタイプの提案※1があり、関係者の“心の準備”が整っていました。

  1. (※1)コラム14回と15回「改めて問う。マテリアリティとは何か?(その1、その2)」を参照されたい。
    https://sri-sinc.jp/knowledge/2021072001.html
    https://sri-sinc.jp/knowledge/2021081101.html

このような情況から、「2022年は、TCFD枠組を基礎とする、世界の新サステナビリティ情報基準元年」と言えそうです。元々、包括的なサステナビリティ報告のための国際的枠組を初めて確立したのが、2000年に発行された「GRIガイドライン(初版)」です。この2000年を世界初のサステナビリティ情報基準元年とすれば、今回は第二次の元年となります。

3つの公開草案の共通点と相違点

3つの公開草案はサステナビリティ情報開示という共通のテーマをもちつつも、それぞれの立場・目的に応じて基準案を策定しています(SECとEFRAGは政府の規則、ISSBは民間機関としてグローバル・ベースライン標準)。それゆえ、いくつかの論点で違いがあります。共通点と相違点は以下の通りです。

共通点は言うまでもなくTCFD枠組の4本柱、そして気候関連のリスクと機会(SECでは機会は任意)、およびその財務的影響です。また、気候リスクのERM(全社的リスクマネジメント)への統合、(限定)監査の義務化があります。適用時期についても、2023年に適用開始、2024年に最初の報告書開示の予定です(今年内の成立を前提)。

相違点としては、そもそも開示対象について、SECは気候変動に限定していますが、EFRAGとISSB(および後述する金融庁金融審議会)ではサステナビリティ全般と広範囲になっています(各論の取り扱いは異なります)。論点内容の違いには、便益を受ける者、法的規制と対象企業、開示原則、マテリアリテイ、スコープ3、第三者保証、代替報告の認定などがあります。

なお少し異なる視点ですが、TCFD枠組が各草案の基礎として採用された理由は、その有用性に加えて、既に多くの企業や評価者・利用者が慣れているので、情報開示のさらなる充実と工数やコストの負担軽減が図られることではないかと思います。作業実務からは歓迎ではないでしょうか。

SEC公開草案の主要論点

投資家のために、気候リスクの財務的影響に焦点を当てる「SEC草案」

SECは、2010年には既に「気候変動関連の情報開示に関するガイダンス」を公表しています。しかし、気候リスク情報開示に対する投資家などのニーズの高まりに応えるため、強制力のないガイダンスに代えて、今回の規則案「投資家のための気候関連情報開示の強化と標準化」の策定に至りました。このSEC草案の枠組は、TCFD提言GHGプロトコルを基礎としています。

SEC草案は、既存の「規則S-K」(非財務情報の開示規則)に新しい節を追加しています。それは、事業や連結財務諸表にマテリアルなインパクト※2を与えると考えられる気候関連リスク、そしてGHG排出量指標や移行計画などの気候関連情報です。また、「規制S-X」(財務情報の開示規則、日本の「財務諸表規則」に相当)では新しい条を追加しました。つまり、気候関連の財務諸表指標と背景情報を連結財務諸表の「注記」(監査対象)に記載することです。

  1. (※2)業種別のマテリアルなインパクトとして、石油開発、発電、農業、鉱業、不動産、自動車製造を例示する。

SECへの提出書類で開示

実務的には、米国で上場する企業(SEC登録企業)に対して、SECへの提出書類(米国企業はForm10-K、日本などの外国企業はForm20-F)において、以下の気候関連情報を開示すること求めています。キーワードは、気候関連リスク(機会は任意)その財務と事業へのマテリアルなインパクト、さらに気候リスク低減に向けた移行計画です。

  1. ①ガバナンス
    • 気候関連リスクに関する取締役会の監督体制・態勢
    • 気候関連リスクに関する経営陣の評価・管理の役割
  2. ②気候関連リスクとその影響
    • 企業が特定した気候関連リスク(機会を入れてもよい)
    • 特定した気候関連リスクが、事業と連結財務諸表ならびに戦略、ビジネスモデル、将来の見通しに過去に及ぼした、また将来(短期・中期・長期)に及ぼすマテリアルなインパクト
    • 戦略のレジリエンスを検証するためのシナリオ分析インターナル・カーボン・プライシングの概要(実施している場合)
  3. ③リスクマネジメント
    • 気候関連リスクを特定、評価、管理するプロセス
    • そのプロセスの、全社的なリスクマネジメントの仕組 (ERM) への組込状況
  4. ④財務諸表の「注記」における開示TCFD提言にはない要求
    • 気候関連事象(異常気象や物理的リスク)および移行活動(移行リスク対応)が、連結財務諸表と関連支出に及ぼす影響額
      • 財務的影響指標:GHG排出削減や移行活動が及ぼす影響額の合計が、表示科目(例えば、売上原価)の計上額の1%以上となる場合、各影響額とその背景
      • 支出指標:気候関連リスクの緩和や移行活動のために支出した費用や資産の合計額が、各総額の1%以上となる場合、各費用額ないし各資産計上額とその背景
    • 当該気候関連リスクや移行活動の影響額について、気候にかかわる不確実性ゆえの財務諸表作成上の見積ないし条件・仮定
  5. ⑤GHG排出量
    • スコープ1とスコープ2のGHG排出量:絶対量と原単位(各量と合計)、外部保証を要求
    • スコープ3のGHG排出量:絶対量と原単位(マテリアルな場合)、ただしスコープ3を含むGHG排出量削減の目標を設定している場合のみ
  6. ⑥気候関連の目標と移行計画
    • 気候関連の目標(ターゲットまたはゴール)
    • 気候関連リスクを低減するための移行計画(策定されている場合)

「セーフ・ハーバー・ルール」の適用

SEC草案では、将来を見通したフォワード・ルッキング情報に対する「セーフ・ハーバー・ルール」が適用されます。直訳すれば、荒天回避のための「安全港規則」ですが、予め定められたルールに従えば、違法・違反にならないことを意味します。予め包括的に適法な行為を類型化しておくことで法的な安全性を高め、訴訟の多い米国では積極的に利用されています。

気候関連情報には将来の予測や推計ないし仮定を含むことから、不確実性のある情報にならざるを得ません。そこでSEC草案では、投資家の評価や判断に必要な関連情報を提供するために、インターナル・カーボン・プライス、シナリオ分析、スコープ3排出量の3件についてセーフ・ハーバー・ルールの適用を提案しており、適用されれば民事責任が免除されます。

スコープ3排出量については、バリューチェーン上の企業から検証可能で正確なデータを入手することの難易度の高さから、このルール適用が提案されています。これは、まずは広く個別企業のスコープ1とスコープ2の排出量情報を確実にすることを狙っているように見えます。

ESRS公開草案の主要論点

サステナビリティ情報報告の標準化・義務化をめざす「ESRS草案」

EUにおける非財務情報の報告は、これまで2014年制定の「NFRD(非財務情報報告指令)」によって規制されてきました。2021年4月公表の「CSRD(企業サステナビリティ情報報告指令)案」は、NFRDをもう一段高めて、非財務情報(今後は、サステナビリティ情報)に関する報告の有用性、比較可能性、信頼性の向上をめざしています。

  • (注)NFRD: Non-Financial Reporting Directive
    CSRD: Corporate Sustainability Reporting Directive

そもそもCSRD案の大きな狙いは、財務情報とサステナビリティ情報を同等に扱うことにあり、ダブル・マテリアリティの浸透をめざしていることが分かります。CSDR案によるサステナビリティ情報報告の強化点は次の5点です(特に、「無形資本」とタクソノミーの明示に注目)。

  1. 対象企業の範囲の拡大:従業員500名以上から250名超へ、売上高4000万€超、純資産2000万€超(約2万社から約5万社へ、売上高カバー率は75%)
  2. ステークホルダー情報の充実:そのマテリアル事項の決定プロセス
  3. 報告要件の標準化・義務化:将来情報、無形資本(人的・知的・社会的資本)、EUタクソノミー規則による報告
  4. 第三者保証の義務化:任意から必須へ(限定保証で監査報告書に統合。タクソノミーの特定を含む)
  5. 情報開示のデジタル化:年次報告書のマネジメント・レポート、単一の電子フォーマット

ESRSの理解はCSRDの理解から

NFRDを修正・補強したCSRD案の全体像を示したのが図表1です。キーワードは「サステナビリティ事象 (Sustainability Matters) 」であり、内容は正にESGです。2000年初頭のCSRから始まったサステナビリティ (ESG) の議論は、2010年のISO26000(社会的責任のガイダンス)を経て、GRIスタンダードとともに“ここに極まった”という感慨が、筆者にはあります。

図表1:CSRD案によるサステナビリティ報告要求のESG項目

ESRS草案を策定したのは、欧州委員会から委託を受けた民間の専門家グループ「EFRAG※3」です。今後、CSRD案は今年10月、ESRS草案は今年末までに採択を予定しています。さらに、2023年にはセクター別基準を含む第二の基準が設定される予定です。

  1. (※3)European Financial Reporting Advisory Group(欧州委員会も一部出資)

ESRS草案は、CSRD案で示された報告事項を実務化するEU委任法(政令)ですが、原則主義ではなく細則主義でかなり詳細に規定されています。ESGに「全般」を含めた4領域で、13分野(S1~S2、E1~E5、G1~G2)、合計136項目あり、膨大な文書量です(図表2)。ただし、例えばE1(気候変動)の分野では17項目が具体的に規定されますが、その後半は「例示ガイダンス」で、実際的で分かりやすく説明されています。

図表2:ESRS草案によるサステナビリティ報告の要求項目(総数136項目)

ISSB公開草案の主要論点

サステナビリティ開示の「全般的要求事項」からはじまる「ISSB草案」

2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26で設立が表明されたISSBは、設立後初めてとなる「IFRSサステナビリティ開示基準」として、二つの公開草案(S1基準案とS2基準案)※4を公表しました。基本的に資本市場向けのサステナビリティ情報のグローバル・ベースラインの確立をめざしています。

  1. (※4)ISSB基準・公開草案全体の概要(英語版・日本語版)
    https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/exposure_draft_ssbj.html

S1基準案は、ISSBが開発するIFRSサステナビリティ開示基準に共通する開示基準を示すものです。つまり、投融資者(正確には、一般目的財務報告の利用者)が企業価値※5に関する、重大な (significant) サステナビリティ関連のリスクと機会による影響を評価できるような情報の開示基準案です。そのコア・コンテンツには、TCFD提言の4本柱が採用されています。

  1. (※5)ISSB草案では、「企業価値」は企業の総価値であり、株式時価総額と純債務の合計(財務指標)と定義されている。

S2基準案は、サステナビリティの最初のテーマとして気候変動を取り上げ、TCFD提言の4本柱に基づく気候関連のリスクと機会とその影響に特化した開示基準案です。併せて、「指標と目標」については、付録B「産業別開示要求」※6として、「SASBスタンダード」に基づく11セクター・68業種別の業種固有の指標の開示を求めています。

  1. (※6)S2基準案 付録B「産業別開示要求」(各セクター別に英語・日本語、動画付き)
    https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/exposure_draft_ssbj/2022-2-b.html

「コメント提出者への質問」からわかる論点

ISSB草案では、開示基準の提案に対するハブコメに際しての質問(S1、S2いずれも17問)が明示されており、その論点がよく分かります。その中で筆者が注目するのは以下の通りです。S1基準案(全般的要求事項)では、つながりのある情報 (Q6) 、情報の記載場所 (Q10) 、推定の根拠や不確実性 (Q11) 。S2基準案(気候関連開示)では、バリューチェーン上の集中 (Q4) 、気候戦略レジリエンス (Q7) 、基準適用の費用対効果 (Q12) 。

「統合思考」と通底する発想

S1基準案の「はじめに」を読むと、ISSB公開草案の策定趣旨が明快に記載されています。それは、財務・非財務要素の結合性(つながり)と外部環境(≒メガトレンド)の影響を強調する「統合思考」と通底する考え方です。筆者なりに要約すると、以下のようになります。

  • 企業のレジリエンス能力(外部環境への対応力)は、様々な経営資源と諸関係(労働力、専門知識、コミュニティ、天然資源、サプライチェーンを含む)に依存する。
  • サステナビリティ関連のリスクと機会は、経営資源と諸関係への企業の依存度、逆にそれらに対して企業が及ぼすネガティブ・ポジティブな影響から生じる。その結果、財務的リターンと企業価値に対する創出と毀損の可能性がある。
  • 投融資者は、企業が直面する重大なサステナビリティ関連のリスクと機会に関するマテリアリテイな情報を求め、その意思決定に役に立てる。

忘れてはならないダブル・マテリアリティ

日本では有価証券報告書の改訂へ

日本の状況にも少し触れておきます。今年6月、欧米の動向に呼応して金融庁の金融審議会が、有価証券報告書での開示を前提に報告書「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告 -中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-※7をとりまとめました。今後、更なる議論を経て、年内に「内閣府令」の改訂が予定されています。

  1. (※7)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220613/01.pdf

その内容は、コーポレート・ガバナンス改革を念頭に、やはりTCFD枠組を基本としています。サステナビリティ全般では気候変動をはじめ人的資本と多様性が主要課題であり、「ガバナンス」と「リスク管理」を必須とし、企業がマテリアリティと判断すれば、「戦略」と「指標と目標」の開示を求めています。気候変動については、例のTCFDの4本柱で開示することが基本となっています。ここで改めて、米欧日の規制当局によるサステナビリティ情報開示基準(案)を比較してみると、TCFD提言の影響力の大きさを感じます(図表3)。

図表3:米欧日におけるサステナビリティ情報開示基準(案)の概観比較
  • (資料)各基準案を基に筆者作成

TCFD枠組はシングル・マテリアリティ

3つの公開草案や金融庁の議論の中で、「サステナビリティ関連財務情報」が最大のキーワードです。つまり、その目的は、投融資者(財務資本の提供者)が、企業のサステナビリティ関連リスク・機会とその財務的影響を理解して評価・意思決定できるように、一貫性・比較可能性・信頼性・検証可能性のある包括的な情報(基準)を明確にすることです。

その中でTCFD枠組は気候変動に特化したものですが、影響(インパクト)の観点からみると、気候が企業に及ぼすインパクトに着目するシングル・マテリアリティです※8。しかし、気候変動は単なる自然現象ではなく、その主因は企業を含む人間活動です。したがって、マテリアリテイとしては、同時に逆方向の企業が気候に及ぼすインパクトにも着目する必要があります。両方でダブル・マテリアリティとなります(図表4)。CSRD案(ESRS草案)も同様の定義です。

  1. (※8)G20の要請でFSB(金融安定理事会)が設立したTCFDの基本任務から考えると、同然と言えば当然だろう。
図表4:社会的課題を通してみる二つのインパクト(ダブル・マテリアリティ)
  • (資料)筆者作成。ダブル・マテリアリティはEUのNFRDで提案された概念である。

「サステナビリティ情報」と「サステナビリティ関連財務情報」の違い

他方、「サステナビリティ情報」とは、サステナビリティ事象(環境や社会の状態)を伝える情報を意味し、企業は環境や社会に対してポジティブとネガティブのインパクトを及ぼします。ここにCSRが問われる根拠があります(ISO26000による定義)。CSRD案とESRS草案(図表12)のESGの各分野をみれば明らかです。

なお、近年の「ステークホルダー資本主義」ではステークホルダー価値をいかに高めるが議論の中心となっていますが、実は財務的な企業価値を水面下で支えているのは、他ならぬステークホルダー価値です(図表5)。サステナビリティ情報の開示では、この密接不可分の二つの価値創造を忘れてはなりません。

図表5:ステークホルダー価値が支える企業価値(イメージ)
  • (資料)旧IIRCの「統合報告フレームワーク」に着想を得て筆者作成

公開草案がそれぞれどのように最終化されるかは、ハブコメを踏まえた最終案に委ねられますが、各企業が該当する基準を適用する際には、その目的や基本的な立場・視点をよく理解しておくことが必須です。それから最後になりますが、3つの公開草案がほぼ同時に公表されたことは、単なる偶然なのでしょうか。筆者にはよく分かりません。

次回はメガトレンドに戻って、各論の2回目として「エネルギー・資源」について論じます。

(つづく)