なぜ今、「統合思考経営」なのか?
~ESGを踏まえた長期にわたる価値創造のために~
これから企業はどんな世界で経営をするのか?
~メガトレンドとサステナビリティ~
前回(第31回)まで、日本企業が昭和的な同質性集団から脱して、いかに多様性集団に転換するかという問題意識の下、数回にわたり「人材多様性と人材ポートフォリオ」について論じてきました。そろそろ結論を述べる段階にきているのですが、今回は急遽、視点を変えて「番外編」として執筆します。
今年は戦後80年を迎えたものの、世界の先行きが不透明で、まさに「VUCA時代の極致」との感触が強くなりました。そこで今回は、これから企業は経営環境の変化をどう見るべきか、について論じます。
今、時代は大きな節目を迎えている
戦後80年、プラザ合意※140年を迎えた2025年。1989年の米ソ冷戦終結から36年を経て、米中の覇権争いを軸として、欧州の影響力の低下やグローバルサウスの台頭が予想され、世界は多極化(ないし無極化)へ向かう兆しもあります。同時に、米国では国を二分する政治(価値観)論争があり、日本ではバブル崩壊後の「失われた30年」について、人口減少を背景に議論が再燃しています。
気候変動の被害が世界各地で激甚化する中、COP30(第30回締約国会議)が本年11月にブラジルで開催されました。昨年、世界の温室効果ガス(GHG)排出量は過去最多を更新し※2、今後10年以内にパリ協定目標の1.5℃を超える可能性が高まっています。既に農林水産業を含む生態系への影響は顕在化しています。翻ってテクノロジー面では、生成AIが世界的に急速に浸透しており、企業の業務プロセスやビジネスモデルに変革を迫り、産業構造を大きく変えるものと考えられます。
- ※1:財政と貿易の「双子の赤字」に悩む米国のため、レーガン政権の1985年に、先進5か国(日米英独仏)が協調しドル高是正(ドル安誘導)に合意した。その結果、日本では円高不況となり、1980年代後期のバブル経済に至る。
- ※2:UNEP(国連環境計画)によれば、2024年の世界のGHG排出量は前年比2.3%増で過去最多の577億トン(CO2換算)。国別排出量(億トン)は、中国(156)、米国(59)、インド(44)、EU(32)、ロシア(26)の順。日本は11億トン。
このような国内外の現状を一言で表現すれば、「今、時代は大きな節目を迎えている」ことは間違いありません。それでは、これから企業はどのような世界で経営することになるのでしょうか。
以下の<目次>は、フルレポート(稿末参照)から「見出し」を抜粋したものです。
この「見出し」から、筆者の着眼点や問題意識がご理解いただけると思います。
ご関心のある所や直面する課題からお読みください。
<目次>
2015年は文明史的な「サステナビリティの到達点」のはずだった!!
- サステナビリティの系譜①:1970年代に始まったサステナビリティ概念
- サステナビリティの系譜②:1990年代に確立されたサステナビリティ経営の枠組
- サステナビリティの系譜③:21世紀文明へのパラダイムシフト
- 否定されたサステナビリティ
〔と、ここまで書いたところで〕
メガトレンドを映す長期ビジョンと経営戦略
- 「未来のあり様」を左右するメガトレンド、そのリスクと機会
- 「長期」とは言えない長期ビジョン
「未来」は単一ではない!
- TCFDの気候変動シナリオ分析
- シナリオ・プランニングの「What if 思考」
〔シナリオ・プランニングの効用と限界〕 - 不確実性の時代ゆえの「ネットポジティブ」
〔ネットポジティブが必要な訳〕
- (資料)筆者作成
- (資料)旧IIRC「国際統合報告フレームワーク2021年改訂」(現在、IFRS財団のISSB基準)に筆者加筆
https://www.integratedreporting.org/wp-content/uploads/2021/01/InternationalIntegratedReportingFramework.pdf
- (資料)筆者作成
【50年前に「不確実性の本質」を喝破したドラッカー】
『断絶の時代』:前提条件が不可逆的に変化する時代。過去の成功体験とパラダイムでは対応できない。
『すでに起こった未来』:未来の予言は不可能。洞察力で、今ある「隠れた変化」から未来を読み取れ。
次回(第33回)は、従来の「人的多様性」に戻り、雇用・人事慣行における「正規度」の適否を論じます。
本コラムのフルレポートは、こちらからダウンロードしてください。
(つづく)
